怪物くんとチョコビのドラマ版クロスパラレル。



・・・ポロン・・・


月の光が差すバルコニーのいつもの位置に身を置くと、シンは腕に持った竪琴を弾き始めた。あの皆既月食の夜からほとんど欠かさず続けていて、今ではすっかり習慣となってしまっている。



本人に自覚はないようです



雫がこぼれるように爪弾かれていた弦は次第に共鳴を始め、大きな流れになるころにシンの歌声が調べに乗っていく。



 夜空に瞬く 星屑よ

 幾億千の 輝きよ

 銀河の流れに 身を委ね

 永遠に漂う うつろ舟


 秘そやかに抱く 熱き血よ

 虚空の果へと 流れゆけ


 ほうき星の 旅の如く あてどなく



そのまま間奏を終え、二番を歌いかけたところでバルコニーの隅に滲むように人影が浮き出したのに気が付いた。黒い影は揺らめきながらゆっくりと近付いてくる。


そんな友人の登場に慣れっこになってしまっているシンは、竪琴を置いて席へ誘った。


「貰い物の竜乳酒と、ブラッディシードルくらいしかないぞ。」


「相変わらず甘い酒ばっかだな。ほら、土産だシン。たまにはこう言うのもいいだろう?」


黒い影は、バルコニーに設えられた椅子に近付くと黒衣を纏った人へと変化した。影だった時には黒一色だったが、今は短めの金髪と白い顔になっている。


ことりと音がして大理石の卓に酒瓶が置かれた。


「怪物コーンのバーボン、か・・・お前らしいなクロ・・・」


現れたのは、友人のクロサキと言う男だった。


仕事場で知り合ったシンとクロサキとは、初対面から不思議とウマが合って、今では双方の家を行き来する間柄になっている。今夜のように突然現れる事も珍しくはない。


クロサキは、悪魔と御使いとの間に生まれた。

時おり、運命のいたずらで生まれてくる彼らは、天界と悪魔界、双方から忌むべき存在として見られているため、大抵は怪物界で暮らしている。


生まれてすぐに捨てられる彼らには、父もなく母もなく、運良く怪物界に流れ着いたものだけが生き残れる。怪物の大敵であった悪魔の血を引いているため、怪物界でも彼らの存在を嫌がるものも多い。


だが怪物大王は、


「何、幼子の事だ。大事あるまい。」


と鷹揚で、流れてくる彼らを出来うる限り拾うように命じており、城内に彼らのための一画を設け、保育師やコック、教師なども配して大事に育てさせている。だから、大抵のものは王宮で働いているし、低いものではあるが爵位を持っているものも少なからずいるのだ。


彼らは様々な能力を持っているが、そのうちのひとつにダークエルフの力が効かない、と言うのがある。だから、シンにとってのクロサキは嘘偽りなく親身になってくれ、何でも打ち明けられる親友なのだ。


クロの指がぱちんと鳴るとどこからかグラスがふたつ現れて、ふたりの前に並んだ。シンが無言でグラスを満たすと、これも無言のクロがグラスをあげてこちらに出す。


軽くグラスを合わせると、シンは一気に飲み干してしまった。酒に弱いシンには珍しい事だ。もう一度グラスを満たし、今度は半分ほど呷ってグラスを置く。


「だいぶ参ってるみたいだな。」


からかうようなクロの声が聞こえて、むっとしたシンはやや乱暴に返す。


「何でもねぇよ。」


「今お前、自分の状態判ってないだろ。」


「自分の事くらいわかってるよ。」


シンはグラスの中身を一気に干すと、またどぼどぼと酒を注ぐ。

酔いのせいなのか、少し赤く染まった目許を興味深そうに眺めてクロは言った。


「ウブだねぇ。」


「何がだよっ。」


「いい年して初恋なんだろ。」


図星を指されてシンはぷいと眼を逸らす。ほおが膨らんでいるのが可愛らしい。


「それより、何の用なんだよ。なんか、話があんだろ?」


「ウッチーに様子を見てきてくれって頼まれたんだ。」


「様子って俺の様子か?俺は至って普通だぞ。それよりもなんであいつ、自分で来ないんだ?」


「お前なぁ・・・」


クロサキは呆れてしばらく言葉が出なかった。


「お前、自分がどう言う状況か、判ってないだろ。」


「は?」


「歌だよ、お前の歌。怪物界中大騒ぎになってるぞ。」


「どう言う事だ。」


クロサキは大きなため息をついた。本当に自覚していないらしい。