ドラマ・卒業後。ウージぬ森での後日談。


その後の三人


*竜の場合*


「山口・・・」

教育実習生としての第一日目。

俺、小田切竜は赤銅学院の職員室へ入っていって見知った顔があったのに驚いた。

そう言えば、東京の学校へ勤め始めたって言ってたっけ。

嬉しい反面、俺は複雑な気持ちだった。

高校時代から長年慕っていた破天荒な担任教師は、

つい先頃、他の男のものになってしまった。

だからと言って、流してしまえるほど生易しい気持ちじゃあなかった俺は

自分の気持ちを持て余していたのだ。


「おーだぎりー♪日誌書いたら、一緒に昼飯だかんなっ!」

俺と隼人とであれほどアプローチしたと言うのに、こいつには俺を振ったのだと言う

自覚は小指の先ほどもないらしい。

満面の笑みで俺のそばにやってきて、無防備に引っ付いてくる。

俺としちゃあ喜んでいいんだか、悲しんでいいんだか。

とにかく、強引に引っ張ってこられて食堂で差し向かいってわけだ。

俺たちのトレイには山のような食料が乗っている。

いや、正確に言うと山口のトレイだけは乗っていた、だ。

「なぁなぁ、それ食べないのか?」

「ああ、こんなに食わねぇっつったのにお前が無理矢理押し付けたんだろ。」

もともと食事にはこだわらない方だし、何よりも生きるってことにさして興味も持てない俺にとっては食事なんて煩わしいだけだったのだ。

しかし、目の前の彼女にとってはそうではないらしい。

「じゃあ、あたしが食べてもいいか?」

「いいけど。」

言ってやると嬉しそうに俺のためにと買ってくれた食料の山をどしどし片付け始めた。

この旺盛な食欲に、山口の生きる力みたいなものを感じて、たまらなく惹かれるのは

おかしいだろうか。隼人にそう言うと

「俺の久美子はなにやっててもカワイイの!」

と言う返事が返ってきた。

何をやっても自分を中心に物事を回す親友を、少しでも出し抜こうと今回は頑張ったのだったが、愛しい女は俺たちに出会う前に出会ったやつを選んでしまった。

反則だよな。そんなことも知らずにいた自分が滑稽で、ばくばくと大口を開けてクリームパンをほおばっている女を眺める。

昔から細いくせにもの凄い食欲で、見ていてびっくりしたものだが

更にひどくなっている。そう言うと

「おう、今はふたり分だからなっ♪」

なんて衝撃の一言をさらりとかましやがった。

タチわりぃ・・・

そりゃ、結婚してんだから当然そう言うこともやってるんだろうけど。

山口が沢田さんと。

思わず想像しちまって、どうにもやりきれなくなった俺は早々に席を立った。

そのあとを山口があわてて追いかけてくる。

「おーい、小田切ー。まてよーっ。」

パタパタ走ってくるけど、お前まだ安定期にもなってないのにいいのかよ。

思う間もなく、俺を追いかけて階段を下り始めた山口が脚を踏み外した。

咄嗟に腕をのばしてその華奢な身体をがっしりと受け止める。

腕の中の無防備な姿と、柔らかな肢体、ふわりと香る髪の香り・・・

愛しさが募って思わず顔を寄せたら、その途端。

あのときの連想から、隼人の唇の感触を思い出しちまった。

あの馬鹿、どれだけ遊んでやがるのか知らないが、唇が合わさった途端、

反射的に舌まで入れやがったんだよな・・・||||

「うげっ・・・」

不審そうな顔の山口からあわてて離れると、俺は大きく深呼吸をした。

せっかく山口を独占できるチャンスなのに、当分山口には近寄れそうにない。

やれやれ・・・

ため息をつくと、俺は次の授業の準備のために職員室へと向かったのだった。




*春彦の場合*


やばい、最近の俺、自分でも自覚するぐらい、やばい。


高校時代から慕っていた担任教師。

ずっとこだわってきたけど、遠い南の海の彼女のもとへ会いにいって気がついた。

恋愛感情じゃないんだ・・・

憧れと友情と親愛と、そんなものが混じった強い感情を俺はヤンクミに抱いていた。

彼女を手に入れるべく、すべてをなげうって努力した親友は、俺が遠慮したからだと言う。

確かに、必死になって彼女のために努力する慎を見て、敵わないなあと思った。

その辺りから段々と思いが別の方向へと育っていったと思うんだ。

慎が日本を留守にしている間、誰よりもヤンクミのそばにいて、誰よりもヤンクミを守ったと思う。

でも、これは恋じゃない。

自覚してしまえば、あとは楽だった。

親友と結ばれた元担任の親友って立場で、俺はふたりとの付き合いをずっと続けてきた。


結婚してすぐに子供が出来たヤンクミは、ただいま妊娠8ヶ月。

ぎりぎりまで仕事を続けるんだって言って、今も赤銅学院で教鞭をとっている。

あっちへ行ったりこっちへ行ったり、俺らと同じように手のかかる生徒達の所為で、

ヤンクミはこの時期になってもまだ走り回っている。

夏の初めの覚醒剤事件のときは大変だった。

まだ安定期にも入っていないのに大立ち回りをやったおかげで、あやうく流産するところだった。

それ以来、仕事であちこち飛び歩いている慎の代わりに

暇さえあればヤンクミに連絡を取って、

買い物に付き添ったり危ない場面でフォローしたりと、

何くれとなく世話を焼いている。

俺の仕事の現場が神山から赤銅〜白金一帯に集中しているのをいいことに、

大江戸にもしょっちゅう顔を出して、

果ては母親教室の付き添いまでかってでる始末・・・

俺、どうなっちゃってんの。喜んでんなんてやばいっしょ。

そうこうするうちに、俺は段々妙な気分になってきた。まだ超音波写真でしか見たことのない、ヤンクミの赤ん坊。

それが可愛くて可愛くてたまらない。

「生まれてからのおっ楽しみだぁ〜。」

「ま、いいんじゃねぇ。どっちでも可愛がるし。」

なんていって性別を聞くことを断固拒否している両親の所為で、男か女かわからないんだけどさ。

いざ対面となったら、俺、可愛すぎておかしくなっちゃうと思う。

んでもって、もしヤンクミ似の女の子だったりしたら・・・

やばい。やばいっしょ。

「内山さん、そのニヤニヤ笑い、やめてくれませんか。」

クマ特製の熊ーボーラーメンをすすりながら、俺の顔を見ていた矢吹が言う。

「内山さん、自分の子供じゃないってわかってます?」

その隣でヒグマラーメンをつついている小田切も呆れたように言うけれど。

「いや、絶対に美人よ。俺の天使ちゃんは。」

「うわっ。天使ちゃんときたよ。」

「しかも俺のとか言ってっし。」

大丈夫かねぇと言う顔で呆れて顔を見合わせる矢吹と小田切を尻目に

俺はまたうっとりとため息をついた。

「だってなぁ、きっと可愛いぜ・・慎に似てもヤンクミに似ても美人なこと間違いないし!」

「ま、そりゃそうだろうけどなぁ。でもどんな容姿だって子供は可愛いもんだぜ。」

カウンターの中のクマが口を挟む。

「クマん所は母親似っしょ。美形じゃん。」

「まぁなぁ。」

そう言って相好を崩すクマは、もうすっかり親父の顔だ。

ほんとに楽しみだな、慎とヤンクミの赤ん坊の顔見るの。

きっと俺、うんと甘やかしちゃうんだろうなぁ。

「子犬と間違ってるんじゃね?」

「ああ、小動物好きだしな。」

矢吹と小田切がなんか言ってるが、聞き流しちゃうもんね。

はぁ、早く会いたいなぁ・・・


慎とヤンクミの結婚式以来、何かとつるむようになった黒銀のふたりと

クマのところでビールを飲んでの帰り道。ほろ酔い気分で路上の月をあおぐ。

元気で生まれてこいよ。

頼むな、お月さん。

んなこと祈ってるなんて、俺やばいよなぁ・・・

そう思いながら師走の寒風の中、俺は母ちゃんの待つ家へと急いだ。


*隼人の場合*

こちらは性表現がありますので18歳以上の方で自己責任でご覧下さい。

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