Futon Side Stories 14



〜運命の恋〜




「さようなら・・・いつまでも元気でな。」




そう言うとシンは心の底までしみいるような深い笑顔をたたえました。


そのままシンはひらりと身を躍らせ、


その身体はゆっくりと滅びの亀裂へと落ちていくかに見えました。




咄嗟にのばしたクミコの手が、ガシリとシンの腕を支えました。


両手だけで繋がって、シンの身体は今にも溶岩の流れの中へ落ちて行きそうです。




シン!シン!そう叫んでコビット達がクミコに加勢します。



「馬鹿野郎っ、離せ!お前らまで落ちるだろ!」


「はなすもんか。絶対はなすもんか!ひとりで死ぬなんて許さないからな!」


「シン、はやく上がってこいっ。」


「足場はねぇのかよ!」


「お、落ちる〜っ。」


「シンちゃんシンちゃんっ!」



ずんと地鳴りが響きました。



「いけないっ、封印が揺らぎ始めた!溶岩が溢れるぞ!


魔王が出てきてしまう。皆、逃げろ!」


シンが叫んぶのと足元の溶岩流が盛り上がって蒸気が吹き出すのとが同時でした。


その勢いで、崖からぶら下がっていた皆の身体が崖上まで吹き飛ばされました。



どさっと皆の身体が岩に叩き付けられます。


周りにはバラバラと岩が降ってきます。



「皆、怪我はないかっ!」


シンが叫びます。


ノダッチは手に岩が直撃して指がつぶれています。


「いてぇ・・・いてぇよ・・・」


「ううっ・・」


ミナミは右腕と脚、ウッチーは胸を岩で打ったようです。


シンは一瞬、崖の方を見やって躊躇しましたが、皆を助ける方が先だと判断し


コビット達を抱え上げるとクミコを前にして逃げ始めました。



皆で庇い合いながら必死に出口へと向かいます。


足元から岩がどんどん崩れて行きます。


溶岩が盛り上がって今にも流れ出しそうです。



地の底から魂消るようの雄叫びが聞こえてきます。


上の方では噴火が始まっています。


こけつまろびつ、一行がようやく亀裂の外へとたどり着くと同時に


もの凄い閃光が封印から沸き上がりました。




ぐっと盛り上がって今にも溢れそうだった溶岩流がゆっくりと引いて行きます。


ひっきりなしに煙と礫を吐き出していた火口も静かになってきたようです。


地の底から響く魔王の足音が、ずぅんとひときわ大きく響いたかと思うと


恐ろしい断末魔の叫び声が聞こえ、やがて静かになりました。




「ど、どうなったんだ?」


ウッチーが聞くと


「終わったんだよ。封印は無事働いてくれたようだ。」


晴れ晴れとした笑顔でシンが答えました。


その顔が今までになく色っぽくてコビット達は赤面しました。



「さ、行こう。」


ぱっと立ち上がって歩き出そうとしたシンが、転がっていた礫に躓いて転びました。


「あれ?」


「めずらしいな、何やってるんだ。」


クミコが差し出した手を握り返したシンが真っ赤になりました。


これもついぞ見たことがない光景です。



「どうしたんだよ、シン。」


「なんか変だぞ。」


岩の上にひょいと飛び乗ろうとして、シンはまた躓きました。


「う・・・ん、なんだか身体が重い・・・」


身体のあちこちをさすりながら首を捻ります。



心配そうに覗き込むクミコの顔がいつになく可愛く見えてシンは胸が高鳴りました。


その感覚も経験したことのない感情でした。



「なんだか人間みたいだな。あ、もしかしてお前、人間になったとか?」


ノダッチが言うと


「アホ、そんなことがあるか。」


「ないない、それはない。」


コビット達は一斉に反論します。



しかし、自分の身体をあちこち確かめながらシンは言いました。


「・・・そうみてぇ。」


「ええ?」


「まじ?」


「エルフの命を捧げるってこう言うことだったのか・・・」



自ら二度も命を捨てようとしたシンの願いが聞き届けられたのです。


長生のエルフの命と引き換えに封印は元の力を取り戻し、


シンには定命の人間の命が新しく与えられたのです。



「エルフとしての力を皆封印にあげちゃって、人間の身体のシンが残ったって事?」


「どうもそうらしいな。」


「じゃあ・・・」


「ああ、死なずにすんだし封印も問題なくなったみたいだ。」



「シン、よかった・・・」


クミコは心から嬉しそうにそう言いました。



エルフが人間に恋をすると、


その命を失ってしまうことをクミコははじめから知っていたのでした。


だから、シンの求愛を頑なに拒否し続け、諦めてもらおうと一生懸命だったのです。


この旅の途中から、それはクミコに取って非常に辛いものになりました。


なぜなら、クミコもまた少しずつシンとの絆を深めるうちに


シンに惹かれていったからなのでした。



思いもよらない結果となりクミコは心から嬉しそうに笑いました。




シンはこれからどうしようかとしばらく考え、シルマールの館にそのまま住んでも


問題ないと判断しました。


それならば。


「クミコ、結婚してくれる?」


「「「「いきなりそれかよ!」」」」


「えええええええっ!」


「「「「って、声デカッ!!」」」」


「ふふっ、帰るまででいいからさ。考えといてよ。」


「お、おぅ////」




悪の魔王が封印されたことにより、急速に力を失ったサルマルとその軍団は


オタール・カミヤマール連合軍の前にあっさりと敗れ去りました。


オークやウルクハイはまだ跋扈しているものの


彼らの力はずっと弱くなり、群れることもなくなったためか次第に森や山の奥深くでしか


見られなくなり、やがて霧の中に飲まれたように消え去ったのでした。


エルフ達もまたこの世界での役割を終えて、少しずつ西へと去って行きました。




こうして人間の時代がやってきました。


オタールには王が帰還しました。


そして長く打ち捨てられていたエンガール王国の復興を宣言し


トモヤーンはオタール・エンガール連合王国の王として即位しました。


トモヤーン王は執政家のひとり娘を娶り


王国は長く栄えたと言うことです。



めでたしめでたし



†††



「はい、おしまい。」


「うん。おもしろかったよ。」


「ねぇねぇ、けっこんしきは?」


「書いてない。」


「ええー!けっこんしき!けっこんしき!」


「ええー、書かないと駄目か?」


「べつにー。」


「だめ、だめ、だめ!ぜったいだめー。」


「わかったわかった。また今度書いてあげるな。」


「やくそくだよー!」


「うん。約束な!(苦手なんだけどなー)」




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長い間、おつきあいありがとうございました!


楽しんで書いてきたこのなんちゃってファンタジーも

とうとうクライマックスまで来てしまいました。

愛着があるシリーズだけになんだか寂しいです。


久美子さんはこれでラストのつもりだったようですが

子供たちのリクエストでもう一話書く事になったようです。


と言う訳であともう一回続きます。

よろしくお願いします。


2009.11.28

双極子拝