Futon Side Stories 8




〜執政家の娘〜





北方の大国、オタールは王不在の王国でした。



九百年以上も前、オタール最後の王が行方不明となった時、当時の執政が


「王還りますまで、王の御名において杖を持ちて統治す」


という宣誓を行い、それ以来、代々執政が王に代わって国を治めているのです。


英雄の再来と言われた執政家の跡継ぎ息子は、オークとの戦いで命を落としてしまったため、


現在の執政家には、娘が一人いるだけでした。


執政は長年の苦労から健康を害し、オークの侵入から国を守る力も徐々に衰え、


王国の将来には暗雲が立ちこめておりました。




王国の将来を深く憂い、自らの責を全うするためにリエンはある決意をしたのでした。


それは、オタールの失われた王家の再興でした。


王国を興した最初の王は、半エルフです。


オタールの王の系譜は絶えてしまいましたが、


ずっと昔に分家してエンガールを治めた王の血筋は今に伝えられているのです。


エンガールは既に滅びていましたがその子孫たちは今も血筋を大切に守り


国を持たないさすらい人として世界中を彷徨っているのでした。



上古の戦いで折られた剣が再び鍛えられるとき、オタールに王が戻ると


預言されているのです。


さすらい人の王をオタールへ迎え、自分がその元へと嫁げば


民も安心し国も収まると、リエンは考えたのです。


さすらい人の王トモヤーン・ソロン=ギル・シノハラムを探して


長い苦難の旅の末、リエンはついにトモヤーンがテンカイの森にいることを突き止めたのです。





二十七代目の跡継ぎ娘、リエン・ヨシズミウスがテンカイの森を訪ねたのは


御前会議が始まろうとする頃でした。


会議の邪魔をしないからと、リエンは柱の陰でおとなしく会議の様子を見守っていました。


ちなみに、コビットの四人組も近くに隠れて会議の様子を聞いておりましたが、


リエンにはまったく気付いていませんでした。



会議が終わろうとする頃、リエンはとうとう我慢が出来なくなって皆の前に飛び出しました。


やっと見つけたトモヤーンが、長い危険な旅にでようとしているのです。


なんとしても阻止して祖国へ連れて帰らねばなりません。


「トモヤーン様。私はオタール王国第26代執政の娘、リエンです。


父が病に倒れたのです。オタールは危機に陥っています。


オタールを救えるのはあなたしかいません!


私と共に王国へ帰り、ともにオタールを守りましょう!」


そう言うとリエンはうっとりとトモヤーンを見つめました。


「我が君・・・////」



取り敢えずトモヤーンがリエンを連れて行き、会議はお開きとなりました。




「おい、あれってさ、絶対、色恋のもつれだよな。」


ウッチーが言うとあとの3人も頷きます。


「うっわ、抱きついてるよ。色男はいいよなぁ。」


「おお、泣き出したぞ。上手に慰めてんな。モテる男は違うってか。」


「そ、お前なんかじゃ、はなから比べもんにならねぇよ。」


「んだとぅ、こらぁ!」


「お、やるのかぁ、この!」



ミナミとノダッチが言い争っていると、通りかかったシンが聞きました。


「お前ら、こんなところでなにやってんの?」


そこは、トモヤーンとリエンが入っていった部屋の入口の柱の脇です。


4人はふたりの様子を窺っていたのです。



「ま、敵情視察ってやつ。」


「そそ、シンにとってはあの女、都合いいっしょ。」


「シンにはいい方へ進んでるっぽいよ。」


中の様子をちらりと見て、シンは複雑な気持ちでした。


リエンとオタールの事、トモヤーンの立場などをミスラン=ディアに聞いたクミコが


哀しそうだったからです。



クミコは潔い女です。


オタールの民のため、トモヤーン自身のために自分の恋心など取るに足りない事と後回しにする事でしょう。


それでも辛くないわけはありません。


クミコの心情を思うと、ライバルの新しい恋を手放しで喜ぶ気になれなくて


シンは苦悩しているのでした。




柱の陰の5人にはまったく気付かず、クミコが部屋へと入っていきました。


「私に何かご用ですか?」


「クミコ姫。トモヤーン様を返してください。」


「私は、私とトモヤーン様はそんな関係じゃないし、オタールが大変な今、


それを見捨てるようなトモヤーン様じゃないことを知っています。」


「でも、彼は頑として帰るとは言わないのです。私、あなたが旅の一行に混ざっているからじゃないかと思って・・・」


そう言うとクミコは赤面し


「ちちちち、違いますよ!////かか関係ないと思います////」


リエンはまだしばらく疑り深い表情でクミコを見ていましたがやがて決心すると言いました。


「わかりました。私も行きます!」


「「は?」」



こうして旅の仲間は9人になったのです。




「こりゃこりゃ。お前たちは何をしておるんじゃな?」


廊下で様子を伺っていた5人は、突然後ろから声をかけられて驚きました。


振り向くと、子供くらいの背丈の禿頭の老人がにこにこして立っていました。



エルフの友である冒険好きなコビット、ゴンゾウ・バギンズでした。


彼はまた、ミスラン=ディアの古い友人でもありました。



「ゴンゾウおじさん!こんなところで何やってるんです?」


ノダッチが不思議そうに聞きました。


ゴンゾウは、ノダッチの父方の大叔父の従兄弟で変わり者として有名なコビットです。


コビット村立学校の校長でもあります。


先頃、111歳の誕生祝いの最中に行方しれずになって以来、誰も見たものはいなかったのです。


おおかた、またふらりと旅に出たのだろうと言う事で、誰も探しませんでしたが


ノダッチとウッチーだけは親戚だと言う事もあって心配していたのでした。


「何、静養じゃよ。ところで、お前たちどこかへ行くのかい?」



そこで4人は今回の話を詳しく語って聞かせました。


「ふむふむ、うーん、面白い話じゃのぅ。


お前たち、帰ってきたら残らずわしに報告するんじゃぞ。


創作意欲が湧いてきたわい。」


そう言って、ゴンゾウはコビットたちに餞別としてそれぞれに剣とパイプ草、


それから焼き菓子などを渡したのでした。




†††



「やきがしって?」


「フルーツケーキみたいなもんじゃないかな?なあ、慎。」


「まあ、そうなんじゃねぇの。」


「おなかすいたなぁ。」


「うん、おなかすいたーぁ。」


「そう言えば小腹が空いたな。」


「は?さっき晩飯食ったところだろう、お前達。」


「うーん、そうだけどさぁ。」


「「おなかすいた、おなかすいたー。」」


「しょうがねーなぁ、ケーキでも食いにいくか?明日は休みだし。車出すよ。」


「「「わぁい!」」」


「ふふっ(可愛いの)。」




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ここまでお読み頂きありがとうございました。


登場人物がどんどん増えるばかりで話が進みません(笑)。

ゴンゾウおじさんは出してみたかっただけでお話には関係なさそうです。

なにをやっているんだか。成績でも付けているのかな?


さて、やっと9人の旅の仲間がそろいました。

次回からは旅の様子になる・・・はずです(笑)。


呆れないでおつきあいくださいませー(汗)


2009.7.30

双極子拝